Aperture径の設定について

初稿 2006.4.10

改訂 2006.4.15

はじめに

Limovie開発の当初から「Aperture径をどのように設定したらよいか」が、測定における大きな課題となっていました。実際の測定においていくつかの試みがなされ、「Apertureは小さく、Backgroundは大きく」することが、バックグラウンドノイズを低減させるために有効であることがわかってきました。ここでは、なぜそうなるのか、また、Apertureはどこまで小さくできるか、について、数式と実験の両面から考えてみました。

結論的には、Aperture径を次のように設定することが適切だと考えられます。

(1) バックグラウンドノイズが少ないときは、星像に外接するように設定する。

(2) バックグラウンドノイズが多いときは、

星像の半径/2 ≦ Aperture半径 ≦ 星像の半径

の範囲でAperture半径を変えて測定をおこない、最もノイズの影響の少ないものを測定結果とする。


以下にその詳細を述べます。


1.ApertureBackgroundの設定

光量を示す数値 L は、

Apertureを構成する各ピクセルの輝度をAi、ピクセル数をNa

Backgroundを構成する各ピクセルの輝度をBi、ピクセル数をNb とすると、

(1)  

として求められます。

ここで、星像を構成するピクセルの輝度をSi、そのピクセル数をNsとおき、CCDの熱ノイズ等に起因するノイズ成分をAni , Bni として、星像の全てがAperture内に含まれるとすると、式 1 より

(2)

と表わされます。ここで、画面上のノイズによる輝度値がどのピクセルでも一様の標準偏差σを持ち正規分布にしたがうとすると、式の、ノイズ成分の標準偏差Sは、


     (3)


と表すことができます。

 式(3) は、Apertureのピクセル数(Na)が少ないほど、またBackgroundのピクセル数(Nb)が大きいほど、標準偏差Sが少なくなることを示しています。したがって、

Apertureは小さく、Backgroundは大きく

設定することにより、測定時のノイズを低減することができます。

 このうち、Backgroundについては、ノイズの量はほぼピクセル数の平方根に反比例します。

 一方、Apertureは、構成するピクセル数にほぼ比例してノイズが増大します。したがってS/N比の高い測定をおこなうためには、可能な限り小さく設定する必要があります。


2.Apertureはどの程度まで小さくできるか

 Apertureは小さいほど、バックグラウンドノイズの影響を小さくすることができることがわかりました。

 では、Aperture径をどんどん小さくして、星像の直径よりも小さくしたとしたらどうなるでしょう?

 もし、大気による影響がなく、星像がジフラクションリングそのものであったとします。その場合には、星像(正確には1次の回折像)は、明るい星でも暗い星でも大きさ(直径)は同じです。ピークの輝度が違うだけで、ピークに対する各ピクセルの輝度の比は同じです。このことは、増光(または減光)途中の輝度分布をLimovie3D-Graphで連続表示してみるとよく分かります。明るくなるにつれてピークは高くなりますが、星像の直径はほとんど増加しません。(極端に暗い場合は除きます)

 以上から、星像の一部を測ったとしても、光量の比を正しくとらえることができると考えられます。


3. XZ14302の接食の画像を用いた検証

 では、実際はどうなるのかを、星食のビデオで検証してみました。

 測定に用いたのは、長野市で観測したXZ14302の接食のビデオです。シンチレーションが少ないことと、星像が飽和していないことから、光量変化の測定に適しています。なお、測定に用いたビデオカメラWATEC WAT100N は、M44を用いた光度測定により、光量と出力の直線性を確認してあります。

(1) 検証の方法

 この接食の2回目の増光時の星像について、次のように測定します。

 1.星像に外接するようにApertureを設定する。このときのApertureの半径は7ピクセルであった。この状態で、増光時と、復光してから1秒の測定をおこなった。

 2.Aperture半径を5,3,1ピクセルと、小さくし、同様に測定をおこなった。

 3.復光時の平均値を1とした場合の、それぞれのフレームの値を計算した。

 4.Aperture半径7ピクセルの時の値を横軸に、5,3,1ピクセルの時の値を縦軸にとり、散布図を描いた。

 もし、半径が小さい場合でも7ピクセルの時と変わりないとすれば、各点は直線上に並ぶはずです。

(2) 検証の結果

 


 図は、Aperture半径7ピクセルの場合を基準とした、小さな半径の場合の対応する光量です。復光時を1.0として計算し、対応させています。

 グラフを見ますと、どの半径の場合も測定値はほぼy=x の直線上に乗っています。 このことから、Apertureの半径を変えても光量比が測定値からほぼ同様に得られることを示しています。

 ただし、半径を小さくすると、データのばらつきが大きくなります。これは、計数値が少なくなったことによる計数誤差の影響が大きくなったことに加え、シンチレーションによって星像の形は不規則に変化するため、星像の一部分では全体を正しく代表することができないためであると考えられます。また、Limovieの星像追尾機能が、星像のどの部分を中心としてとらえたかによっても数値が違ってくるでしょう。


4.まとめ

 原理的には、Apertureの径を星像よりも小さくした場合でも、光量の測定をおこなうことが可能です。今回の検証でも実験的にそれが裏付けられました。ただ、実際の測定では、シンチレーションによる星像の「形状変化」等のために、星像を小さくするほど測定値のばらつきが大きくなります。

 以上から、バックグラウンドノイズの大きい画像や、地球照の影響が大きい画像では、Apertureを小さくすることが有効であると考えられる場合には、Apertureを星像の径よりも小さくして測定することができます。ただし、その場合でもなるべくAperture径を大きめにとり、星像の直径の半分以下にはならないようにする(おおまかな議論としては半値幅以下にならないようにする)ことが測定値のばらつきを防ぐために重要になってくると思います。

 減光量の小さい小惑星食の場合などには、星像に外接するAperture径からはじめて、だんだんに径を小さくして測定し、グラフ化してみて、最もノイズの影響の少ない(ばらつきの少ない)測定値を選べばよいことになります。