Photometric analysis of the 2UCAC 4367679 occultation by (36)Atalante.

Mar. 13, 2011
Kazuhisa Miyashita


これまで、小惑星の見かけの動き(影の速さ)が大きい場合には、星食観測からは小惑星の形状を明らかにするために充分な精度を得ることが困難であるとされてきている。小惑星による恒星食の場合、フレーム蓄積が用いられることが多いが、時間分解能は蓄積時間に等しい、と考えられてきたためである。しかし、ノイズが少ない場合には蓄積された画像の光量を解析することにより蓄積時間よりも小さい誤差で時刻の見積もりができるはずである。また、誤差の量はノイズの大きさに関係するはずである。ちなみに、1フレーム(蓄積)分の時間の誤差ができるのは、ノイズの標準偏差の現象の光量差に対する割合が0.44程度と比較的大きな場合であり余程不明瞭に見える現象である。
更に、従来の同様の現象についての整約結果の中には、現象後との不整合の程度が蓄積時間を越えたものになっている場合も見受けられる。それらのあるものは、タイムインサータの設定が正確でなく、例えばちょうど1秒違った報告値となってしまっている、という場合が多いと考えられる。しかし、それだけでは説明ができない場合も多い。この問題に対して、多数の観測の得られた現象について、解析をおこなえば、解析手法のどこにその課題があるか、明らかにできるはずである。
3月8日の(36)Atalante による2UCAC 4367679の食は、それに適した観測であった。影の速さは34km/秒と大きく、6名という比較的多くの観測者がビデオによる観測に当たっている。今回は、そのうち5箇所の観測についてビデオファイルをお送りいただき、現象時刻の解析をおこなった。


解析の方法

Limovieの試作バージョン 0.9.95.8gP6 を用いて、次のようにおこなった。
(1) 追尾はPSFによるものとする。回転ガウス曲線の星像を作成し、それとの比較で星像の中心位置を決定する。
(2) 測光も、星像の変形が大きすぎてフィット不可能な場合を除き、基本的にはPSF方式とする。
# 以上により、ノイズ、とりわけ潜入期間中のノイズを低減し、ノイズによる時刻の誤差を減少させる。
(3) 中間値を持つフレーム(蓄積)がないときは、フレーム(蓄積)とフレーム(蓄積)の境目が現象時刻であるとする。
(4) 中間値を持つフレーム(蓄積)があるときは、そのフレーム(蓄積)の途中で現象が起こったと考え、その位置を比例配分で決定する。
(5) 誤差は、N/S比(S/N比の逆数)からシミュレーション実験により得られた値をつける。
(6) 蓄積撮影をおこなったときは、蓄積による出力遅延の時間を補正して現象時刻を得る。
(7) タイムインサータの設定が正しくないときは、観測者からの連絡に基づき、それを補正したものを現象時刻とする。


解析とその結果

石田正行氏の観測 (三重県 大紀町, WAT120N 8フレーム蓄積)

Disappearance : 11h08m09.43s  +/- 0.041s
Appearance    : 11h08m11.95s  +/- 0.042s


Fig.1 Disappearance observed by Ishida

蓄積がなされているために明確ではないが、ゆっくりした光量変化が起こっている可能性もある。 ここでは、途中の一つの蓄積をステップと見て時刻を求めている。

Fig.2 Appearance observed by Ishida



山西郁也氏の観測 (大阪府 高石市, WAT120N 16フレーム蓄積)

Disappearance : 11h08m07.39s  +/- 0.390s
Appearance    : 11h08m10.63s  +/- 0.245s


Fig.3 Disappearance observed by Yamanishi

星像がたいへん淡く、解析の限界に近い。減光の始まりの部分はステップに見えるが、たいへん淡い星像であり、 減光後との区別がつきにくい。このステップの蓄積の途中で減光したと考えられるが、明確でないことから、 ステップを考慮せずに現象時刻を求めている。なお、ノイズが大きいことから、時刻の誤差も大きな値となっている。

Fig.4 Appearance observed by Yamanishi

減光時と同様、復光時にもステップ様の蓄積が見られる。ノイズが大きいことから、ここでもステップを考慮せずに 現象時刻を求めている。
ノイズが大きいため、潜入、出現とも大きな時刻誤差を見積もっている。


岡本成二氏の観測(岡山県津山市, WAT100N(蓄積のないカメラ) )

Disappearance : 11h08m04.54s  +/- 0.030s
Appearance    : 11h08m07.66s  +/- 0.031s
機器の不調により、インサータの時刻表示が1秒遅れて設定されていた。それを補正してこの値を得ている。
なお、以下の解析では、インサータの数値をLimovieで読み取っているため、上記と1秒異なる値となっている。

Fig.5 observed by Okamoto

蓄積機能がないWAT100Nでの撮影であるが、ノイズが比較的少なく、明瞭な現象が記録されている。
N/S=0.41 は、時刻誤差がちょうど1フレームとなるノイズの量である。このグラフを時刻誤差推定の目安として利用することができる。


Fig.6 Disappearance observed by Okamoto



Fig.7 Appearance observed by Okamoto



横道順一氏の観測(岡山県津山市, WAT120 2フレーム蓄積)

Disappearance : 11h08m04.86s  +/- 0.014s
Appearance    : 11h08m08.00s  +/- 0.012s
機器の不調により、インサータの時刻表示が1秒進んで設定されていた。それを補正してこの値を得ている。
なお、以下の解析では、インサータの数値をLimovieで読み取っているため、上記と1秒異なる値となっている。

Fig.8 observed by Yokomichi

WAT120Nで2フレーム蓄積である。ノイズがたいへん少なく、明瞭な現象が記録されている。
潜入側で、ステップとも考えられる蓄積ができているが、他の蓄積(フレーム)と比べて大きな違いが見出せないことから、 時刻を求める上でのステップとしての扱いはしていない。

Fig.9 Disappearance observed by Yokomichi



Fig.10 Appearance observed by Yokomichi



内山雅之氏の観測(三重県尾鷲市, WAT120 8フレーム蓄積)

Disappearance : 11h08m09.04s  +/- 0.034s
Appearance    : 11h08m12.24s  +/- 0.044s


Fig.11 observed by Uchiyama

WAT120Nで8フレーム蓄積である。ノイズがたいへん少なく、明瞭な現象が記録されている。


Fig.12 Event time observed by Uchiyama

蓄積による遅延時間として、8フレーム蓄積の場合は0.275秒を解析から求められた時刻から引き算する必要がある。 この観測の場合、恒星が隠されていた時間は3.2秒であり、0.275秒はその8.6%に当たる。補正がなされない場合、 整約図上でのばらつきが感じられるようになる。


監物邦男氏の観測(岡山県総社市, WAT120 16フレーム蓄積)

Disappearance : 11h08m04.41s  +/- 0.031s
Appearance    : 11h08m07.96s  +/- 0.060s


Fig.13 Disappearance observed by Kenmotsu

潜入時に16フレームの明瞭なステップが見られる。ガンマ補正がOFFであることから、ステップの高さを用いて蓄積途中の どこで潜入が起きたかを計算した。

Fig.14 Appearance observed by Kenmotsu