(177) Irma(mag 13.9) occults TYC 1865-01119-1 (mag 9.3)


1. Observation

観測者 : 石田正行
望遠鏡 : シュミットカセグレン D=200mm, fl=2000mm; F6.3 レデューサ
ビデオカメラ : WAT-120N 8フレーム蓄積 Gain Hi; Gamma Hi
ビデオレコーダーr : DV mini テープレコーダー
保時  : GHS-OSD

2. 測光解析

(1) ライトカーブ

石田氏はこの現象をビデオ観測し、明瞭な階段状の光量変化を見出した。また、重星の現象であるかどうかの確認のために、筆者のところにビデオファイルを送ってくださった。 Limovieの最新開発バージョン Ver.0.9.97.3P57 がこの解析に用いられた。このバージョンは、GHS-OSDのタイムスタンプを読み取る機能を持っている。 GHS-OSDの日付が表示されたUTCの時刻であれば、特に操作することなく、自動的に時刻の数値を読み取る。(ただし、月の明部が表示にかかっていると読み取ることはできない。) また、蓄積撮影されたビデオの解析結果に対して、回折曲線の当てはめをおこない、より確からしいと考えられる時刻を、上記の読み取り時刻を用いて自動計算する。 従来、ユーザが蓄積や遅延を考慮しながら時刻を読み取ってきたが、この機能を用いることによって、より客観的な時刻測定が可能となり、観測者は時間や意識を観測に集中することができる。

開発版 Limovie 0.9.97.3gP57 ダウンロード




Fig. 1 Light change of the Irma occultation

ライトカーブは No. 900 - 1250 フレーム付近に明瞭なステップを形成している。また、あまりはっきりしないが No. 1250 - 1400 フレーム付近にもステップが見られる。 主星が先に、そして伴星がそれに続いて、潜入・出現したであろうことが読み取れる。



Fig. 2 Light curve shows the frame integration

この図は、解析結果を横に拡大したものである。8個のフレームが同じ値を持ち、8フレーム蓄積で撮影されたことを示している。 この場合、同じ値を持つ8個のフレームのうち、先頭から4個目のフレームに記録されたタイムスタンプの、遅い方の時刻が、ビデオ記録における蓄積の中央時刻を示している。
以上から、8フレームごとに飛び飛びに(ちょうどタイムラプスビデオのように)光量測定をおこなって、時間軸を蓄積数分拡大すれば、Limovieの持つ回折曲線との比較が可能となる。 具体的には、次のような手順による。

☆ 以下は、IOTA-VTI, KIWI-OSD, GHS-OSDを用いた場合の説明である。TIViには対応していないので注意すること。

<1> (Intervalの値を1 として)対象星の測光をおこなう。
 ☆ この測定の目的は、蓄積の様子を調べることである。ファイル全てを測光する必要はなく、10蓄積分ほどで充分である。
<2> グラフを表示させ、Fig. 2のように、ファイルの最初の方にある蓄積の中の中央のフレームを選択して、それを本測定の開始フレームとする。解析開始フレームは、次のようなフレームとする。  ここで選択したフレームを、測光開始前に変更してはならない。
<3> DataRemoveボタンをクリックし、Measurement data will be removed. Are you sure? で "はい"をクリックして、蓄積の様子を調べた測光のデータを消す。
<4> メインウインドウの右下付近にある Interval を、蓄積数にセットする。
 ☆ 重要であるので、セットし忘れないこと。
<5> Startボタンをクリックし、測定を開始
<6> Graph ボタンでグラフを表示
<7> 光量が「潜入前の光量を100%としたときの25%」に最も近いフレーム(点)を選び、クリックする。
<8> Diffraction ボタンをダブルクリックする。
<9> Distance の下の数値 (384401) をクリック。
 ※ Object's velocity calculator ウインドウが表示される。
<10> Asteroid's velocity で、
 Diameter に Preston 予報の Asteroidの項の Dia= の数値を入力。
 Max Duration に Preston 予報の Max Duration= の数値を入力。
 Write to diffraction simulation paramrter ボタンをクリック。
<11> Asteroid's Distance で、
 Pallalax に Preston 予報の Asteroidの項の Pallalax= の数値を入力。
 Write to diffraction simulation paramrter ボタンをクリック。
<12> Object's velocity calculator ウインドウ を閉じる。
<13> Frame range of star and BKG の before と after を調節し、
 緑色の点の範囲(現象前と後の光量を計算するための範囲)を適切に設定する。
 点の数は100程度とすることが望ましいが、薄雲などの吸収で恒星が見えている間にもなだらかな光量変化が認められるときは、その影響が出ないように、範囲を狭く設定する(20〜40でもよい)。
<14> Spectral Effect ボックスの中の、
 ICX428ALL を ICX429ALL に切り替える。
 Starについては、スペクトル型が分かっているときのみ変更。
<15> Fit to Diffraction Curve ボタンをクリック
 ☆ 回折カーブが表示される。
<16> Magnitude calculator ボタンをクリックする。
 ☆ Magnitude calculator ウインドウが表示される。
<17> Select the BaseTime for Event Time ボックスの中の、
 Second field ラジオボタンをクリック
 ☆ 重要である。設定し忘れないこと。
<18> Calculation for Event Time ボックスの中の機種を 120N にセットする。
<19> 下の方にある Mode を Time にセット
 ☆ 現象時刻が表示される。
<20> Text out to Graph ボックスで、
 OFF 以外に設定すると、測定時刻をグラフに書き込むことができる。



Fig. 3 The time-lapse analysis


3. 回折曲線の当てはめと、コンポーネントの等級

(1) 現象時刻
    回折曲線のあてはめにより、現象時刻は次のように求められた。
    Disappearance Brighter: 16h50m05.702s +/- 0.042s
    Disappearance Fainter : 16h50m11.090s +/- 0.054s
    Appearance Brighter:    16h50m16.022s +/- 0.044s
    Appearance Fainter:     16h50m21.174s +/- 0.478s


Fig. 4 Disappearance of brighter component



Fig. 5 Disappearance of fainter component



Fig. 6 Appearance of brighter component



Fig. 7 Appearance of fainter component


(2) 伴星の等級
解析の結果、次の値が得られた。

潜入時:
 First Event : 9.58 +/- 0.04 Mag.
 Second Event : 10.73 +/- 0.07 Mag.

出現時:
 First Event : 9.54 +/- 0.05 Mag.
 Second Event : 10.87 +/- 0.18 Mag.


Fig. 8 Appearance of fainter component


Fig. 9 Appearance of fainter component

Fig. 8, 9 のように、得られた伴星の等級の値はほぼ一致している。

4. Gamma補正について

この観測は、Gamma補正を Hi にしてなされている。ところが、これを逆補正すると、Fig. 10 のようになり、潜入と出現でコンポーネントの明るさに矛盾が生じる。
潜入側のステップの高さが、出現側に比べて極めて小さくなってしまうのである。


Fig. 10 Gamma re-corrected light curve

この原因ははっきりしないが、可能性として、映るか映らないかという程度の低光度の領域では入力と出力がリニアではなく、ガンマ補正によりそれが打ち消されたのではないかとも考えられる。
いずれにせよ、ガンマ補正を考慮した光量変化については、重星の星食現象を用いて説明することはできないことから、説明が可能な「ガンマ補正を考慮しない」光量変化からの等級推定値を報告値として用いることとする。