2007330日の SAO99153 の食の解析

Apr.07 2007

1.概 要


滋賀県守山市の石田正行氏は、氏が観測されLimovieを用いて測光されたSAO99153(XZ15705)の光量変化のデータ(CSVファイル)を送ってくださった。このデータについて、Limovieの回折シミュレーション機能を用いて解析をおこない、以下のような結果を得た。

(1) 現象の時間差 : 1684msec (1.684) +/-7msec 
この結果は、予報から期待される値、1.486 秒 に近い値である。

(2) 主星と伴星の等級 : 主星(西側) 7.38等 伴星(東側) 9.46等 等級差 2.03
この結果は、XZ Double Star File の、主星7.8等、伴星9.7等、等級差1.9等 と比較的近い値であるが、
Washington Double Star Catalog
の、主星7.51等、伴星8.59等、等級差1.08とは大きく異なる値である。


2.現象の予報

Fig. 1 Prediction calculated using LOW



Table -1 Prediction calculated using OCCULT 3.6


Fig. 2 Component's orbit and astrometry described in XZ double star file


 Table 2.  Description in Washington Double Star Catalog



Table 3.   Description in XZ Double Star File 


3.測定とシミュレーション

表2より、シミュレーションに必要なパラメータを計算すると、

Va : 月の移動方向の角速度 (“/sec)CCT : Contact AngleRV : 月縁に垂直な方向の角速度成分

Ds : 月までの距離 とすると、月の月の移動速度 V (m/sec) は、次のように求められる。

RV = cos(CCT)* Va より

Va = RV / abs(cos(CCT))
= 0.323 / abs(cos(+21))
= 0.3460 ("/sec)

V = Ds*π*Va/(180*3600)

Ds = 401658 (km)

V = 401658 *0.3460 *pi()/(180*3600)
= 674 m/sec

以上より、フィッティングをおこなう。


Limovieの「重星解析機能」は、近接した重星の解析を目的に開発されたことから、1000ミリ秒(1秒)以上の時間差を持つ現象には対応していない。それぞれの現象について、通常の星食と同じように解析を行った。現象前後とステップの光量については、Limovieが算出する平均値を元に計算することができる。

Fig. 3 Limovie analysis (First star is disappeared)

以下、No.272フレームを基準(フレーム中央時刻を0(基準))として、時刻を表現する。

現象時刻 No.272 Frame - 9 ミリ秒  誤差 +/- 2 ミリ秒


Fig. 4 Limovie analysis (Second star is disappeared)

At the background, a few points are selected to avoid the influence of the lunar face illuminated by earth shine.

現象時刻 No.323 Frame - 18 ミリ秒  誤差 +/- 5 ミリ秒

= No.272 + Frame 1684 ミリ秒  誤差 +/- 5ミリ秒


以上より、現象の時間差は 1693 ミリ秒 +/-7ミリ秒 である。


3.現象の時間差と、コンポーネントの位置

OCCULTの予報より、

RV(Radial Velocity) = 0.323”

であるから、離角の、月縁の位置角の方向の成分は、

0.323 * 1.684 = 0.544”

である。


Table 2に、ワシントン重星カタログの、該当星についての記載、Table 3XZ重星カタログの記載を示す。OCCULTの予報とともに、この数値を用いて現象の時間差を計算する。

Separation = 0.48”, Position Angle = 111.8 deg.


重星の位置角111.8° および 現象の位置角111度より、

重星の位置角 - 月縁上の位置角 = 111.8-111 = -0.8°

OCCULTの予報より、 Radial Velocity (Rv)=0.323"/sec であるから、

期待されるコンポーネント間の現象時間差 T は、

cos(0.8°) = 0.259*T/0.1”

T = cos(0.8°)*0.1”/0.323

T = 1.486

と計算される。

一方、観測からは、既に述べたようにLimovieの重星シミュレーションから、時間差として 1684msec (1.684) が求められている。これらの数値は比較的よい一致を示す。



4.コンポーネントの等級

Limovieはフィッティング時に現象前後のそれぞれについて、選択したフレームの光量の平均を算出する機能を持つ。

これを利用すると、等級の見積もりに際して、表計算ソフトを用いる必要はない。


Limovieによる光量測定値は、

ペア = 922.3

ステップ = 141.8

バックグラウンド = 26.4

月縁上の位置角が45°<PA<135°であることから、先に潜入した星が西側であるとして扱うことにすると、

西にあるコンポーネントは東側のものより明るい。

ということができる。


主星の光量は 922.3 - 141.8 = 780.5 units

伴星の光量は 141.8 - 26.4 = 115.4 units

ペアの光量は 922.3 - 26.4 = 895.9 units

カタログより、ペアの等級は 7.23 (Tycho 2 TYC 841-1181-1)

等級を計算する式.... m1-m2=2.5*log(b1/b2)

2つの星の等級の差は、

m1-m2 = 2.5*log(780.5/115.4) = 2.08

ここで、ペアの等級を 7.23等 であると仮定すると、主星は、

m1-7.23=2.5*log(895.9/780.5)

m1-7.23=0.15

m1=7.38

したがって、伴星の等級は、

7.38+2.08=9.46


以上より、

主星(西側) = 7.38 mag.

伴星(東側) = 9.46 mag.

を得た。


XZ Double Star File によると、主星7.8等、伴星9.7等であり、等級差1.9等と、測定値とほぼ等しい。

一方、Washington Double Star Catalogでは、主星7.51等、伴星8.59等、等級差1.08であり、測定値との開きが大きい。