薄雲の影響を除去するための測光の改善

- LimovieによるSAO189403(XZ28551) のグレージングの解析 -

Nov.18 2007, Kazuhisa Miyashita


In English


1. 緒 言

石田正行氏は、SAO189403(7.6等級)のグレージングを撮影したビデオファイルをお送りくださった。

雲の多い中での観測であり、画面には現象時刻付近で、雲が流れていく様子が映し出されている。対象星は雲の影響で明滅し、得られたライトカーブは、有用な情報を得るのに不十分なくらい変形している。しかし、幸い、画面には対象星から39秒角隔てて東側にあるSAO189405(8.0等級)が写っている。たいへん接近した星であることから、多少の差はあるが、対象星に対する雲の影響を同様に受けていると考えられる。この星の光量を基準として対象星の光量について補正をおこなった。また、測定においては、SAO189405を基準星としたLinked Trackingをおこなうことで、地球照で明るくなった月縁の影響を避けるようにした。これらにより、整ったライトカーブが得られたことから、この補正により、光量変化の復元がかなり精度よく実現できたと考える。


2. 現象の予報

Table 1. Prediction of SAO189403 and SAO189405 grazing occultation for Konohama, Shiga by OCCULT4.0

Occultation prediction for Ishida Konohama

E. Longitude 135 56 33.6, Latitude 35 6 22.3, Alt. 86m; Telescope dia100cm; dMag 0.0

day Time P Star Sp Mag Mag % Elon Sun Moon CA PA VA AA Libration A B RV Cct R.A. (J2000) Dec

y m d h m s No D v r V ill Alt Alt Az o o o o L B m/o m/o "/sec o h m s o m s

07 Nov 16 9 54 51 M 189403WF0 7.7 7.5 34+ 71 26 213 19S 148 119 161 -7.5 +3.7 +9.9+9.9 .000 -90 20 32 13.3 -22 9 17

189403 is double: 7.7 8.1 39" 128.7

07 Nov 16 9 55 0 Gr 189403WF0 7.7 7.5 34+ 71 25 ** GRAZE: CA 19.0S; Dist. 44km in az. 316deg. [Lat =35.65+0.78(E.Long-135.94)]

07 Nov 16 9 55 22 M 189405SF0 8.1 7.9 34+ 71 25 213 19S 148 119 161 -7.5 +3.7 +9.9+9.9 .000 -90 20 32 15.5 -22 9 42

189405 is triple: 9.2 9.2 0.10" 44.0 : 8.1 7.7 39" 308.7


3. 気象条件と測光

Figure 1 、ビデオの1フレームの画像を示す。薄雲が画面を次々に横切って流れていく。この現象の測定のために、3個の測定領域が用いられた。青色は、対象星用。黄色は比較星用。マゼンタはバックグラウンド用である。雲の影響を補正するためには、対象星、比較星ともに、スカイバックグラウンドを基準にした正味の光量の値を知る必要がある。対象星は途中で潜入することから、潜入時の光量を差し引くことにより正味の値を求めることができる。一方比較星は、潜入が起こらないことから、その値から正味の値を求めることができない。そこで、同一の半径を持った測光領域(マゼンタ)を用意し、付近のバックグラウンドを測定することにより、これを「比較星の潜入時の値」として用いた。

また、Limovieの測定においては、Star tracking 機能により、測光領域は明るい場所に移動するという特徴がある。そのため、地球照で明るくなった月面があると、月面に測光領域が引っ張られるようにして移動してしまう。これを防ぐために、Linked Tracking 機能を用いた。比較星(SAO189405)を基準点として、対象星用の測光領域をリンクさせておくことにより、月面への移動を最小限にとどめるようにした。その結果を Figure 2 に示す。星食現象にともなう光量変化は、回折によるカーブが現れており、また、380フレームから440フレームにかけては、厚く小さな多数の雲の塊が画面を移動していった結果、激しく測定値が上下するようすが見られる。


Figure 1 A snapshot of video clip of SAO189403 grazing occultation.


Figure 2 Light curve (Raw Data) obtained from Limovie photometric analysis.


4. ライトカーブの改善

Figure2から、500フレーム付近以降では、光量の値が安定していることが読み取れる。これは、薄雲の通過が終わり、晴れてきたことによる。従って、比較星および対象星の測定値の平均が必要であれば、これらのフレームから得るとよい。

補正値(I)は、次の式で計算することができる。

I = (Io-At) * (Ic-Ab) / (Ac - Ab)

  I : 補正された値

 Io: 対象星の当該フレームの光量の値 (measurement value)

 At: 対象星の潜入後の光量 (雲のないときの値の平均)

 Ic: 比較星の当該フレームの光量の値 (5フレームの移動平均)

 Ac: 比較星の雲の影響のない時の値の平均

 Ab: 比較星付近のバックグラウンドの値 (Object3 により測定)

このうち、Icについては、雲の影響は、1フレーム程度では大きな変化がないことから、補正値が不安定になることを避けるため、5フレームの移動平均を行っている。

この補正の結果をFigure3に示す。潜入前の光量はほぼ一定となっていることから、実際の光量をよく復元していると考えることができる。また、そのことから、減光の途中の光量の変化も比較的高い精度を持っていると考えられる。


Figure 3. Improved light curve

This is a result of the calculation shown in formula (1).


復元されたライトカーブは、回折によるなだらかな変化を示している。更に、250フレーム付近に小さなステップができている。現象付近のHalf Flux Diameter の変化をFigure 4に示す。この中で、Half Flux Diameter は、ステップ付近では小さな値を示している。これより、このステップはバックグラウンドノイズではなく星像によるものであると考えられる。それ以降の数フレーム(260フレーム付近)も、Half Flux Diameter は大きな値(7から10)にはなっていない。ここにもかすかな星像があると考えられることから、ステップ状の光量変化は、ほぼ確実であると考えられる。ただ、月縁の地形によってもこのような光量変化をすることもあると考えられることから、重星によるものであるかどうかは明確でない。




5.まとめ

比較星を基準とした補正や、Linked Tracking などの機能を用いることにより、通過する薄雲の影響を取り除いて、整った形のライトカーブを得ることができた。この手法により、現象における光量変化をかなり良好に復元できたと考えられることから、厳しい気象条件であっても、星食やグレージングの観測から多くの情報が得られると期待できる。