星食観測によるSAO93062のコンポーネントの確認

宮下和久

2007/11/25


In English 

1.はじめに

20071123日のSAO93062の星食の観測をおこなった。また、滋賀県守山市の石田正行氏と岡山県総社市の監物邦男氏からも観測ビデオをお送りいただいた。これらのビデオファイルから、Limovieにより光量変化を測定した。各地点の観測から得られたライトカーブは、潜入現象の途中で2フレームよりなる小さなステップを形作っている。このうち安曇野市の観測は、比較的シンチレーションが小さかったことに加え、明るい恒星であることとノイズの少ないビデオカメラ(TGV-M)を用いたことによりバックグラウンドノイズも低く抑えられていることから、このステップがノイズによる影響であるという可能性は低く、重星による光量変化をとらえたものであると考えられる。

この解析から、

重星の離角の、月縁における現象の位置角方向の成分として、0.018秒角(安曇野市)0.017秒角(守山市)

重星の等級として、主星:6.09等級、伴星:6.96等級(安曇野市)、主星:6.00等級、伴星:7.25等級(守山市)

がそれぞれ得られた。



Figure 1. SAO occultation in Nov.23 2007

Analyzing was used Linked tracking feature to remove the influence of lunar limb briten by earth shine.



2. SAO93062の重星についてのカタログの記載

 重星としてのSAO93062の記載は、ワシントン重星カタログ(WDC)XZ重星ファイルにある。重星に関する議論はこれを参考になされるきであるが、WDSには接近した重星の記載がなく、また、XZ重星カタログには不可解な記載がなされている。たとえば、BLA 1Aaの記載から5.69等級と6.2等級から求められた合成等級は5.1等級となり、他の記載とのずれが大きくなる。本稿では仮に、合成等級を5.69等級として扱うことにする。

Table 1. Feature of SAO described in Washington Double Star Catalog

Name

Observation

Position angle

Separation

Magnitude

Spectrum type



First

Last

First

Last

First

Last

First

Last

BLA 1Aa

1975

1999

147

281

0.0

0.0

5.69

6.2

A0V


Table 2. Feature of SAO described in XZ Double Star Catalog

No.

Name

Observation

Position angle

Separation

Magnitude

Spectrum type

First

Last

First

Last

First

Last

First

Last

3617

Mu Ari B

1969

1973

189

276

0.004

0.047


2.38

A0V

3617

BLA 1Aa

1975

1988

147

281

0.0

0.0

5.69

6.2

A0V

3617

BU 522 Aa-B

1878

1934

266

265

19.1

19.2

5.7

12.2

AOV



3.Limovieによる解析および回折シミュレーションとの比較


 Limovieの解析については、バックグラウンド領域の形状としてLinar Limb/Meteorを用い、星像のトラッキングにはLinked Tracking機能を用いて、月縁の地球照による影響を除くようにした。得られたグラフは、星の潜入後の値がほぼゼロになっており、これらの機能が有効に働いたことを示している。

回折シミュレーションとして、月までの距離 (D)は、LOW(Lunar Occultatin Workbench) Ver4の予報による 353354kmを用いた。 また、月の影の速度は、OCCULT Ver.4 より得た RV(relatice velocity) 0.450 arcsec/second cct(contact angle)=-33degree、および上記の月までの距離(D)を用いて、次式より、891m/sec を得た。

Vs=RV*D/cos(cct) .

比較に用いられた回折シミュレーションの値は、瞬間の値との比較となっており、1フレームの露光で蓄積されることを考慮していない。そのため、数フレームの時間内に起こる現象については、フィッティングに多少の誤差が出ていると考えられる。しかし、誤差はあまり大きくない(多分10ms 程度)と考えられる。

守山市の観測については、D=353554km; RV=0.461arcsec/sec; cct=-32degreeより、月の影の移動速度として931m/sec

を、総社市の観測については、D= 353553km; RV=0.485arcsec/sec; cct=-26degree、月の影の移動速度として 924m/secを得た。


結果を、Figure 2,3,4に示す。contact angleがほぼ同じ値を持つ安曇野市と守山市の観測より得られたライトカーブは、減光開始直後に2フィールドよりなる小さな停滞と、減光途中に1フィールドを持っており、よく似た傾向を示している。フィッティングの結果は、それぞれコンポーネントの光量の値は異なる(ペアの69%(安曇野市)76%(守山市))が、現象の時間差は35millisecond,33millisecondと、ほぼ同じ値を示している。

月縁における現象の位置角(93)方向の離角の成分Seは次の式で計算できる。

Se=Dt*RV

ここで、Dt 現象の時間差(sec); RV relative velocityである。

安曇野市の観測結果からは、Se=0.018 arcsec , 守山市の結果からは、Se=0.017 arcsec が得られた。

また、コンポーネントの等級は、安曇野市の結果から求めると、主星が6.09等、伴星が6.96等級、守山市の結果では、 主星が6.00等、伴星が7.25等級である。

また、総社市の観測の結果からは、シミュレーションカーブがうまくフィットしないことから、現象の時間差から他の推定をおこなうのに充分ではなかった。減光直前のゆっくりした光量変化は、大気のシンチレーションに起因するものと考えられる。しかし、安曇野市や守山市の観測と同様のライトカーブの形状となっていることから、これらの変化はノイズによるものでなく、重星の振る舞いである可能性が高いと考えられる。




Figure 2. Luminous change obtained from Limovie analysis (obseved at Azumino,Nagano)


Figure 3. Luminous change obtained from Limovie analysis (obseved at Moriyama,Shiga)


Figure 4. Luminous change obtained from Limovie analysis (obseved at Soja,Okayama)