GSC6364:280のグレージングの解析
2007/12/1
1.はじめに
岡山県総社市の監物邦男氏は、2007年11月17日のGSC6364:280(10.5等級) のグレージングのビデオファイルをお送りくださった。
暗い星であり、明滅していることと、地球照の影響のために星像が見えにくくなっている。そこで、地球照の影響を少なくする方法を工夫するとともに、回折シミュレーション機能のフィッティングを用いて、統計的にもっとも確からしい現象時刻を求めることにした。
2.地球照の影響を除く方法
星が淡いことから、Star Tracking機能による自動追尾をおこなうと、測定領域が月の地球照に引っ張られるように動いてしまう。それを防ぐために、Star TrackingをOFFにして、少し大きめのAperture を用いることにした。望遠鏡の追尾は安定しており、視野内での恒星や月の動きが小さいことから、Star TrackingをOFFにしても良好な測定が可能となっている。地球照で明るくなった月縁がある場合の測定では、バックグラウンドが測定領域(Aperture)の中のバックグラウンドの値を正しく反映していることが重要になる。外側に大きく広がった円形のバックグラウンドの場合、その中央付近に月縁があるとき、月縁が多少移動しても値に大きな変化はない。それに対して、直径の小さなApertureでは、僅かな月縁の動きでも、値が大きく変わってしまう。その結果、得られたライトカーブは視野の揺れなどの影響を強く反映したものとなる(図2)。これを防ぐには、バックグラウンド領域への月縁の影響が測定領域(Aperture)への影響と同じまたは近い状態になればよい。そこで、バックグラウンド領域の幅を測定領域の直径と同じにし、月縁方向に沿って置いた状態にする。測定領域が円形、バックグラウンドはほぼ長方形、という違いはあるが、両者への月縁の影響はほぼ同じであると考えられる。具体的には次のように行う。
Limovieの Form of BKG area を設定する機能について、 Meteor/Lunar limb モードを選び、Gap を0に、WidthをApertureの半径と同じに設定する(図1)
。
また、改善されたライトカーブを図3に示す。
図2 通常の円形のバックグラウンド領域を用いての測定結果
全体にベースライン(バックグラウンドの値)が大きく変化しており、640フレーム付近での星の出現後の値は0程度となっている。
また、360フレーム付近にピークが見えるが、そのフレームには明確な星像と思われるものは見当たらない。このピークは恒星が画面内を移動し、地球照で明るくなった月面が測定領域に大きく入り込んできたことによると考えられる。
図3 細長いバックグラウンド領域を月縁に沿ってセットした場合の光量変化
D3とR3のライトカーブ。ベースラインの変動がなくなり、潜入出現が見やすくなった。
3.解析に用いるパラメータ
The SKYより、以下の数値を得た。
赤経レート(秒角/秒): 0.3246
赤緯レート(秒角/秒): 0.2337
月の距離(km): 385174.68
これを元に、回折シミュレーションに用いるパラメータを計算する。
月の角速度(秒角/秒)= √((赤経レート)2+(赤緯レート)2)
より、0.4000 (秒角/秒) を得た。
この値を用いて、
月の影の速度は= 月の距離×sin(月の角速度)
より、746.9m/s を得た。
暗い恒星であり、S/N比が小さいことから、回折シミュレーション機能のフィッティングの結果として得られたグラフは、ノイズやシンチレーションによってもたらされた変化を反映していることが考えられ、特にコンタクトアングルの値は、必ずしも正確に月縁の進行方向への傾きを反映したものであるとは言えないことに注意しなければならない。
Limovieのフィッティング機能では、シミュレーションの値と測定値との差の二乗和が最小となるような条件を探す、という方法で処理が行われている。このケースの場合、自動的に求められた値も、基準点(赤い点)を変えることによって変化してしまう。そこで、現象時刻と思われるフレームの各点についてフィッティングをおこない、差の二乗和が最小となる点を探した。以下にその結果を示す。
4.解析結果
D1: 18h55m19.10s +/- 0.43s
[No.523 frame]18h55m19.00s + 96millisec = 18h55m19.10s
R1: 19h01m13.45s +/- 0.02s
[No.582 frame]19h01m13.41s + 43millisecond
Other method to estimate one sigma error is below.
Signal = 426.8-32.3=394.5
Noise( Standard deviation [from No.500 to No.570] ) = 262.2
S/N = 1.50
Error = FrameLength * S/N = 0.0221...= 22millisecond
It is larger than the result of diffraction analysis. To estimate occultation time more safety, the value obtained from S/N is used as the error margine.
D2: 19h01m14.58s +/- 0.22s
[No.628 frame] 19h01m14.95s - 371millisecond
R2: 19h01m18.07s +/- 0.09s
[No.182 frame]19h01m18.05s + 19millisecond +/- 89millisecond
D3: 19h01m48.43s +/- 0.03s
[No.262 frame]19h01m48.48s -45 millisecond +/-18 millisecond
Signal = 405.1-(-5.8) = 410.9
Noise (Standard Deviation from 270 to 340frame) =333.3
410.9 / 333.3 = 1.23
Error = 0.027
FrameLength * S/N = 0.0270...= 27millisecond
It is larger than the result of diffraction analysis. To estimate occultation time more safety, the value obtained from S/N is used as the error margine.
R3: 19h02m01.28s +/- 0.05s
[No.643 frame] 19h02m01.20s +79millisecond +/- 53 millisecond
5.まとめ
月面の地球照の影響を受けやすい、暗い星の観測の場合も、バックグラウンド領域の形状を工夫することで、比較的S/N比の高い光量測定値を得ることができることがわかった。また、グレージングの現象時刻として、以下の値を得た。
D1: 18h55m19.10s +/- 0.43s
R1: 19h01m13.45s +/- 0.02s
D2: 19h01m14.58s +/- 0.22s
R2: 19h01m18.07s +/- 0.09s
D3: 19h01m48.43s +/- 0.03s
R3: 19h02m01.28s +/- 0.05s