XZ16554 (Dec. 26, 2010 (UTC))の星食の回折シミュレーションによる解析

Jan. 2, 2011
Kazuhisa Miyashita





石田正行氏(岐阜県に遠征)、鈴木寿氏、小和田稔氏(静岡県)により、XZ16554の接食が観測された。 このうち石田氏と鈴木氏はそれぞれ2地点での観測である。
各氏のビデオの解析により、不完全な増光(報告書式で言うところのFlash(閃光))や、重星と考えられるような階段状の増減光が認められた。 そこで、それぞれのビデオをお送りいただき、それらの増減光の特徴が何に起因するかを明らかにするために解析を試みた。




測光の改善とライトカーブ

LimovieのPSF測光の追尾精度を向上させるためには、コンピュータに記憶させる星像が、他のフレームの星像を代表するものでなければならない。 インジケータを見ながら、最も鋭い星像を選んで記憶させた結果、確実な追尾が可能となった。フィッティングのために処理する領域(Apertureに当たる) は、可能な限り小さい方がノイズ低減に有利となる。これはAperture Photometryと同様に説明することができる。
以上の2点を満たすような設定を行った。図1は、その設定の様子である。フィッティングインジケーターで、理論値(赤線)と星像のピクセル(青○) がよく一致している様子がわかる。現在、できるだけピークの高い星像を選ぶようにするとよいらしいことが分かりつつあるところである。



図1. 測光用設定の改善



これより得られたライトカーブは以下のようである。ノイズが減った結果、回折による曲線が整った形で現れてきている。



図2.鈴木氏の観測より得られた接食における光量変化


観測された閃光(Flash)とまばたき(Blink)

石田氏、鈴木氏、小和田氏とも、それぞれ1地点の観測から、ほぼ同様の閃光を観測している。

1.石田氏の観測

2地点の観測を時間軸を共通にして比べたもの。下のグラフに閃光が見られる。

2.小和田氏の観測


3.鈴木氏の観測



全ての観測者に閃光が見られることは珍しいことだと思われるが、更にこれらの閃光については、次のような特徴がある。
石田氏の観測では比較的急な出現をし、潜入前のほぼ14%程度でほぼ一定の値をとったあと、比較的急に潜入している。
鈴木氏の観測では、一旦14%ほどのところで一旦ステップをつくり、それから急に増光し始めてまたすぐ減光し、また小さなステップをつくってから減光しているように見える。 増減光は比較的急である。一方、小和田氏の場合、ゆっくりした増減光が見られる。増光の大きさは他の観測者とほぼ同様である
一般的に閃光は、頭がなだらかな山になることが多い。 これは、小さな谷底付近に星が顔を覗かせて、直ぐに潜入するためで、その場合は谷の底部の回折によりなだらかな光量変化となるのである。
ところが、XZ16554の場合は、頂上が尖っている、または2段階に増光したと思われる光量変化である。
これに対しては、次のように説明することが可能である。
XZ16554は重星であり、伴星はペアの光量の14%の明るさを持つ(主星と伴星の等級差は約2等級)。
石田氏の観測では、谷底付近で伴星のみが出現した。この谷は比較的急な傾斜であった。
鈴木氏の観測では、まず伴星が出現した。そして、谷底付近で一瞬主星が顔を覗かせかけて、また主星が隠れた。その後しばらくして伴星が隠れた。
小和田氏の場合は、ノイズのため鮮明ではないが、ほぼ鈴木氏と同様であったと考えられる。


4.手良村氏の観測


手良村氏の観測では、ブリンクが見られた。光量が15%ほどに低下したところで短い停滞があり、その後急に復光している。 単一星の場合、浅いブリンクではゆっくりした光量変化が起こることが多く、全体的になだらかなライトカーブになる。 これは、恒星が月縁から遠いところを通過するため、仮に尖った山頂の付近であっても回折光の分布はなだらかになっているためである。 一方、深いブリンクでは、底は尖った形となり、一定の部分がない。尖った山頂付近をかすめる場合には、その瞬間に光量は25%となり、直後に増光が始まるからである。 それ以上深い光量の減少、すなわち25%以下になる場合は、恒星が隠れ光量が下がりきったところから増光に転ずる。これはXZ5382についての下記の記事のFig.3を参照のこと。
Analyzing and reducing grazing occultation which has been observed by “Kagoshima Team”
ところが、この観測で得られた光量変化は、単一星が完全に隠された場合の光量変化によく似ており、その底が完全にゼロにならなかった、という形をしている。 これは、恒星が山頂付近を通過したのではなく、山の斜面で一旦消えて、また現れたことを示すものと考えられる。 完全に消えなかったのは、伴星が残っていたのであるとすれば、この光量変化を説明することができる。
また、手良村氏の観測には、ノイズに埋もれて見えづらいが、小さな閃光も観察できる。(赤い点の部分。3D画像にも星像が現れている。)


階段状の光量変化




鈴木氏の観測のグラフを見ると、左端の出現にステップができ、その高さが閃光の高さにほぼ一致していることがわかる。 鈴木氏のビデオはノイズが少なく、シンチレーションもあまり大きくない。光量が低下したところでこのような階段状の変化をすることは、地形や回折からだけでは説明しにくい。
そこで、鈴木氏の観測から読み取った 14% の光量をステップの高さと仮定し、それぞれの現象に当てはめてみた。 なお、現象時間が短かいものはフィッティングには適さないことから、少なくとも3個の中間の値を持つフレームがある現象についてのみ回折シミュレーションと比較してある。


1.鈴木氏の観測








2.石田氏の観測






3.小和田氏の観測