Half Flux Diameter について

数値の意味、星像の有無の判別への応用−

宮下和久

2007.8.19 初 稿

2007.9.30 改 訂


1.はじめに

たいへん暗く淡い星の星食現象では、画面で見たときノイズに埋もれて、星像の有無が分かりにくいことがあります。そのような場合、LimovieHalf Flux Diameterを有効に活用することができます。以下に、Half Flux Diameterについて紹介し、合わせて、星食観測において大きな意味を持つ星像の有無を判断するための指標として利用できることを、実際の例をとおして説明します。


1 Half Flux Diameter

Limovieでは、赤い小さな円は測光用Apertureを表していますが、ここでは、緑色で描きなおしてあります。

Half Flux Diameterは分かりやすくするために、赤い円で表示します。


2. Half Flux Diameter (HFD) とは

「測光領域の内側の領域において、この円の内側の領域のピクセル(図1のマゼンタ色の部分)の輝度の合計と、外側のピクセル(黄色の部分)の輝度の合計が等しくなるように描いた円の直径」

のことをいいます。図1の赤い線で表されている円がそれにあたります。(3Dグラフではでこぼこに見えますが、真上から見ると円形をしています。) ここでいう「ピクセルの輝度」とは、バックグラウンドの平均値を差し引いた値を指します。


ここで、ピクセルの輝度値をVi , ピクセルiAperture内の輝度の重心からの距離(ピクセルの一辺を単位とする)di , HFD H とすると、次の関係が成り立ちます。

・・・(1)   更に、・・・ (2) となり、これより、

(3)

として計算できます。分母はApertureの測定値そのものであり、分子も簡単に短時間で処理できます。FMHWを求める場合のような、複雑なフィッティングは必要ありません。このことは、Limovieのように多くの画像を連続的に処理するソフトウエアが星像の大きさを求める場合に、たいへん適しています。


3.星食観測におけるHalf Flux Diameterの期待値


2 星像の有無によるHFDの値のちがい

Apertureの直径を、HFDxはそれぞれの場合のHFDを表す。左は星が潜入し、星像がない場合。右は淡い星像が見える場合。


ここでは様々な場合について、Half Flux Diameterがどのような値をとるかについて考えてみましょう。


1) バックグラウンドノイズだけで、星像がない場合

図2の淡青色の部分は、CCDのノイズを表します。もしAperture内に一様のバックグラウンドノイズがあったとしますと、HFDは、Apertureの面積の半分の面積を持つ円の直径となるはずです。

2 = 2 × HFDo2  から、 HFDo = A/√2 と計算できます。

例として、Apreture半径=7 の設定について考えます。

LimovieApertureは、「『あるピクセルの中心』を中心としてピクセルの一辺を単位とする半径rで円を描いたとき、その円の一部または全部を含むピクセルの集合」であると定義されており、このrApertureの半径として扱っています。

したがって、実際の半径 Rr は、Apertureのピクセル値を元に次のように計算されます。

Rr = √(Apertutreのピクセル数/π) = √(185/3.14) = 7.68

これより、 Do=15.35  HFDo=10.86 の数値を得ます。

およその数値を得たいときは、 実際の半径=設定された半径+0.5 とすれば、簡単に精度よく計算できます。 あるいは、もっとおおまかに、実際の半径=設定された半径 として概算に用いるのも便利です。たとえばApertureの半径を7(ピクセル)に設定したとき、直径は14(ピクセル)ですから、HFDo=10(ピクセル)となると考えられます。


 星像が現れた場合

右の図のように淡い星像が現れた場合を考えてみましょう。星の中心部は、濃い黄色で描いたように3Dグラフでは見えます。そして、中心部の盛り上がりの周りには、ノイズと同程度であるために見えにくい「裾野」(薄黄色の部分)が広がっているはずです。Half Flux Diameter は、その内外の輝度合計を等しくするために小さい値をもつことになります。このように、星像が存在するときのHFD1は存在しないときのHFD0に比べて小さな値となります。


 はっきりした星像が見られる場合

これは、図1のような状態です。この場合、ノイズも少なく星像の形も安定していることから、Half Flux Diameterは、半値幅(FMHW)と等しくなります。


 バックグラウンドノイズの分布に偏りがあった場合

Half Flux Diameterの値は、ばらつきが大きくなります。特にApertureの中心部が「ノイズの谷」に当たっていた場合、HFDの数値はマイナスになる場合もあります。しかし、全体を通してみると、(1)で期待する数値となると考えられます。


実際の観測では、次のようになるでしょう。

A.完全に潜入した場合や、星が機器の検出限界以下まで減光した場合

(1)(4)の状況になると考えられます。HFDはばらつきが大きくなりながらも、その平均値は、式で示した値となることが期待されます。

B.はっきりした星像が存在した場合

HFDはほぼ半値幅に一致した値となり、ばらつきも少なくなるでしょう。

C.淡い星像の場合

上記ABの中間になります。ノイズが充分低い、図1のような場合には、光量がかなり低下してもHFDの値はあまり変化しないでしょう。それに対して、ノイズのレベルが高いときは、HFDはが星食前の星像の場合と、星像がない場合の中間の値を示すことになります。


.星食観測への応用


(1) ノイズが少なく、星像が明瞭な場合

例として、XZ8808(SAO78233)XZ86324の三重星の星食の観測の解析を図3に示します。

1016フレームからXZ86203が潜入、5%ほどの光量低下が起こります。この減光が起こっても、HFDの値にはそれまでとほとんど変化がなく、更に、XZ8808を構成する星の一方の潜入にともない、光量が更に半分程度になっても、HFDの値はほとんど変化していません。更に、もう一方の星の潜入が起こり、回折の影響で4フレームかかって減光しますが、このうち最後の星像が見られるNo.1433フレームでは光量がわずかに41.6と、星食による減光前の6%になっても、HFD3.88で、減光前と変わらない値です。ところが、光量がバックグラウンドレベルまで下がったNo.1434フレームでは、HFD13.5と急激に上昇し、それ以降は、ほぼ11を平均として大きくばらついた値を示します。ノイズが少ないビデオ画像に対しては、HFDは、星像の有無にきわめて敏感であることを示しています。


図3 SAO78233(XZ8808 二重星) XZ86324 の三重星の星食の光量変化とHalf Flux Diameter


(2) 微光の重星の場合

4は、岡山県総社市の監物邦男さんからお送りいただいた、200781日のλ Aqr の星食における光量とHFDの変化のようすです。主星の出現に当たる急激な増光がNo.113フレームから起こっています。しかしその約1秒前のNo.86フレーム付近から、ごくわずかながら光量が増加し、その後ほぼ一定になっていることがわかります。監物さんによると、VTRを再生したモニターには、星像が認められるということですので、この現象は伴星によるものと考えて間違いありません。そこで、新バージョンのLimovieを利用してHFDも同時に測定していただきました。この場合、Aperture径は7ピクセルですから、星像がないときはHFD10.68になることが期待されます。No.80フレーム以前、つまり、モニターで星像が見られない場合には、HFD10付近を中心におおきくばらついています。それに対して、主星出現後のNo.113フレーム以降はHFDはほぼ7付近の値となっています。伴星の出現にともなって、HFDは約7.5ほどになります。ここで値がばらついているのは、僅かとはいえ存在しているCCDノイズの影響であったり、シンチレーションで揺らいで星像が変形したりしているのが原因と考えられます。

いずれにしても、「Apertureの中央付近に光量の高い部分が集中して存在していた状態」が、約30フレームにわたって続いたことになり、CCDノイズの影響の可能性を除去できます。また、地球照で明るくなった月縁の部分にApertureが移動して大きな値を持っている、という可能性も低くなります。(後述の(3)参照。)


4 Lambda Aquarii の星食における光量変化(上)とHFD(下)


(3) 月面および周辺の様々な場所

HFDで、次のような場所を測ってみました。 なお、個々で用いている画像は、上記のλ Aqr の観測のビデオではありません。



スカイバックグラウンド (黄色のエリア)

 ゲインを上げているために、ノイズがあり、ざらついて見えます。

  (青色のエリア)

月は、画面の下の方から上の方へ移動している。この測光領域は固定されているため、地球照でわずかに光る月縁が、だんだんにAperture(赤い円)の中を移動していきます。下の図はその途中を示しています。

月縁でのピクセル値は、地球照で明るい月面からスカイバックグラウンドに向かって、ある程度なだらかなカーブを描いて光量が減少していきます。左の図で、右1/3が月面、左1/4ほどがスカイバックグラウンドです。

この場合、Aprertureは中央の斜面にあたる部分を測光していることになります。

星食の現象はこのような状態で起こることから、HFDを測定しておき、比較対照とすることが必要です。

地球照により明るくなっている月の暗部 (マゼンタのエリア) 

 明るい分だけ、スカイバックグラウンドよりもざらつきが多く見られます。



HFD測定の結果は、次に示すとおりです。潜入の直前、あるいは出現の直後は下記の月縁の状態になっています。HFDから見た月縁は、スカイバックグラウンドとほぼ同様に、Aperture径の1/√2を中心にばらついた数値をもつことがわかります。したがって、星像が存在する場合とは、スカイバックグラウンド同様に判別することができます。


スカイバックグラウンド

このビデオで観測した星食の解析はAprerture=5で行われています。そこで、HFDも同じAperture径で調べてあります。

ほぼ期待されるHFD=7を中心に、値がばらついていることがわかります。


 

他より値のばらつきが少なく見えるのは、たまたま比較的値のまとまっている部分を見ているからです。月縁だからといって、特別なHFDの値を持つわけではないことがわかります。

地球照で明るくなった月面

HFDの平均値やばらつきからは、スカイバックグラウンドとの違いを乱すことは困難です。



5.まとめ

Half Flux Diameterは、コンピュータにとって高速で計算することができる、便利な指数です。星像がない場合の期待値は、Aperture÷1.4 として簡単に求めることができます。星像がないときは、この期待値を平均値として、大きなばらつきをもちながらプロットされます。星像が存在するとき、あるいはその可能性が高いときは、星像がない場合よりも小さい値を示し、ばらつきも少なくなります。この特徴を利用すると、画面やグラフを見るだけの場合に比べて、星像の有無の判断をより客観的に行うことができます。


6.謝 辞

岡山県総社市の監物邦男氏には、観測されたlambda Aquarii の星食のビデオについてLimovieで測定した結果をお送りいただきました。また滋賀県守山市の石田正行氏は、XZ4509の接食を観測したビデオをお送りくださいました。それらのデータを解析するために、Limovieの改良がなされるとともに、これまで明確でなかったHFDの星食観測への利用について新しい可能性を見出すことができました。お二人に感謝申し上げます。


7.参考文献


Fast Auto-Focus Method and Software for CCD-based Telescopes [1] By Larry Weber and Steve Brady

http://users.bsdwebsolutions.com/~larryweber/ITSPaper.htm