2007226日に観測された3重星の星食の解析

宮下和久


初稿 2007.3.3

総社市の観測を加える 2007.3.17

改訂 2007.3.18

改訂 2007.3.24

改訂 2007.4.8


1.概 要


監物邦男氏(岡山県総社市)、大野智久氏(岡山県倉敷市)、唐崎秀芳氏(東京都練馬区)および筆者(長野県安曇野市)は、200722612(UTC)頃に起こった3重星(XZ86324 XZ8808)の星食を観測した。

この三重星について、カタログには表1のように記載されている。観測より得られたライトカーブからは、それぞれのコンポーネントによると考えられる3段階の減光が認められ、現象時刻を得ることができた。

また、4地点の時刻および光量のデータの解析から、

SAO78233は、8.1等と8.3等のコンポーネントよりなり、離角0.269”+/-0.041” 位置角152.5°+/-1.5°

X86324は、9.6等星で、SAO78233の主星から、離角2.75”+/-0.10” 位置角260°+/-2°の位置にある。

が得られた。


各章へのリンク

2.星表における重星の記載と星食現象の予報

3.光量変化と現象の確認

4.コンポーネントの位置の解析

5.等級を求める



2.星表における重星の記載と星食現象の予報


(1) 星表の記載

ワシントン重星カタログにおける重星の記載を、表1に示す。また、OCCULTによるXZ Double Star File の記載事項の表示もあわせて示す。


表1 ワシントン重星カタログ(当該星の記載部分)


図1 OCCULTによる、component A-B の軌道の表示


(2) 現象の予報

表2 OCCULT Ver3.6 (Dave Herald氏作)による予報

(1) 安曇野市

(2) 練馬区

(3) 総社市

(4) 倉敷市



3.光量変化と現象の確認


3−1.X86324の暗縁潜入について

(1) 現象の確認

長野県安曇野市明科光 東経 13756'44.6" 北緯 3619'56.3" 標高 901m (JGD2000)


岡山県総社市 東経 133°44′52.6″ 北緯 34°41′40.3″ 標高 53m (JGD2000)


岡山県倉敷市 東経 133°47'30.67” 北緯 34°35'00.67” 標高 66m (JGD2000)

図2 X86324およびSAO78233の掩蔽時の光量変化 (Field単位の測光)


図2に、現象時の光量の変化を示す。安曇野市おける観測ではNo.1400フレーム付近、総社市における観測ではNo.430フレーム付近で起こった重星(SAO78233)によると考えられるステップが見られるほかに、No.1017フレーム付近(安曇野)No.120フレーム付近(総社市)からの浅い減光も認められる。これは、9.6等星のX86324の潜入によるものと考えられる。

このように、ノイズに対して現象の変化が小さい場合、現象の確かさを調べるためにはインテグラルプロットが有効である(Dunham et.al. 1973) 1)。現象のインテグラルプロット(図3)から、No.1020フレーム付近(安曇野)No.120フレーム(総社)に変曲点が認められ、暗い恒星の潜入を確かめることができた。


左 長野県安曇野市で観測されたもの     右 岡山県総社市で観測されたもの

図3 インテグラルプロット

(2) 時刻の測定

[1] 安曇野市で観測されたビデオ

図4−1は、X86324の減光が起こったと考えられる部分を拡大したものである。フィールド単位の測光である。僅かな減光であることから、シンチレーションのために起こる様々な波長の振幅の中に潜入時の現象が埋もれている。そこで、潜入に伴う変化の中央にあたるフィールド(No.1016.5)を現象時刻とし、変化していることが確実であると考えられるフィールド(No.1014.5,No.1018.5)との時間差(この図によると前後4フィールド)を誤差としてつけることにする。

これより現象時刻を、 12h18m33.645s +/- 0.134s  と求めた。



[2] 総社市で観測されたビデオ


図4−2に、総社市の観測の測定結果を示す。こちらは、シンチレーションによる影響が少なく、明瞭な減光となっている。

No.127フレームの中央時刻が12h 00m 00.74sであることから、先発フィールドの中央時刻はそれより0.008秒早いことから、12h 00m 00.73s である。これを現象時刻と考えることにし、 12h 00m 00.73s +/- 0.03

を現象時刻とする。


[3] 倉敷市で観測されたビデオ

図4−3に、倉敷市の観測の測定結果を示す。この観測では変化が明瞭であることから、回折シミュレーションとのフィッティングをおこなった。

現象時刻は、No.83.5フレーム -7msec と推定され、TIViによる時刻表示を元に現象時刻を求めると、   


Frame No.83

No. 84

end/start

............

Centre

............

end/start


First Field (No.83.0)

Second Field (No.83.5)


end/start

centre

end/start

centre

end/start

11h 59m 55.05s

11h 59m 55.059s

11h 59m 55.07s

11h 59m 55.076s

11h 59m 55.08s


No.83.5 フィールドの中央時刻は 11h 59m 55.076s であると考えられ、Limovieの計算したOffset timeより、11h59m55.076 - 7 = 11h59m55.069
のように計算し、表示と同様に小数点以下2桁に丸めて、
現象時刻  :  11h59m55.07s +/- 0.017s (UTC)

と求めた。



3−2. SAO78233の暗縁潜入について


(1)光量変化と現象時刻の推定

(1-1) 安曇野市の観測について


表2より、シミュレーションに必要なパラメータを計算すると、

Va : 月の移動方向の角速度 (“/sec)CCT : Contact AngleRV : 月縁に垂直な方向の角速度成分

Ds : 月までの距離 とすると、月の月の移動速度 V (m/sec) は、次のように求められる。

RV = cos(CCT)* Va より

Va = RV / abs(cos(CCT))

= 0.138 / abs(cos(+68))

= 0.3683 ("/sec)

V = Ds*π*Va/(180*3600)

Ds = 384973 (km)

V = 384973*0.3683*pi()/(180*3600)

= 687 m/sec


以上より、フィッティングをおこなう。



図5−1  Limovieによる重星のシミュレーション (安曇野市で観測されたビデオ)


フィッティングについて、for Grazing モードも試してみたが、Rate1.0より大きくなり、正常にフィットできなかった。これは、No.1398フレーム付近に見られる振幅が原因と思われる。そこで、OCCULTの予報するContact Angleを仮定して、Occultationモードでフィッティングをおこなった。

フィッティングの結果から、後で起こった潜入はよく一致するのに対し、先に起こった潜入の変化の途中のNo.1407.5の光量低下は他よりも著しく大きいことから、シンチレーション以外の原因(二つのコンポーネントからできている等)によるものである可能性もあると考えられる。いずれにせよ、この測定だけでは明確なことはわからないことから、他の観測との比較等の検討が必要である。

Limovieのシミュレーションは、先に起こった現象について、ほぼ変化の中心を現象時刻として示していることから、それをそのまま現象時刻として扱うこととし、また、そのフィールドから前後2フィールドでは、明らかに現象以前、以後である数値となっていることから、誤差として2フィールド分の0.033秒を与えることとした。

No.1433.0のフィールドの中央時刻は 12h18m47.538s であることから、それよりのオフセット時間 -827ms , +5ms より、現象時刻を、

先に潜入したコンポーネント  :  12h18m46.711s +/- 0.033s (UTC)

後から潜入したコンポーネント :  12h18m47.543s +/- 0.017s (UTC)

のように求めた。


(1-2) 練馬区の観測について

RV = cos(CCT) Va より
Va = RV / abs(cos(CCT))
= 0.133 / abs(cos(+69))
= 0.3711 ("/sec)
V = Ds*π*Va/(180*3600)
Ds = 384984 (km)
V = 384984*0.3711*pi()/(180*3600)= 694 m/sec

これよりフィッティングを行う。




TIViによる時刻表示を元に現象時刻を求めると、   


Frame No.46

No. 47

end/start

............

Centre

............

end/start


First Field (No.405.0)

Second Field (No.405.5)


end/start

centre

end/start

centre

end/start

12h 22m 40.60s

12h 22m 40.609s

12h 22m 40.62s

12h 22m 40.626s

12h 22m 40.63s


No.405.0 フィールドの中央時刻は 12h 22m 40.609s であると考えられ、Limovieの計算したOffset timeより、12h22m40.609 - 620 = 12h22m39.989
12h22m40.609 + 472 = 12h22m41.081

のように計算し、表示と同様に小数点以下2桁に丸めて、
先に潜入したコンポーネント  :  12h22m40.99s +/- 0.017s (UTC)
後から潜入したコンポーネント :  12h22m41.08s +/- 0.017s (UTC)と求めた。


現象の時間差は、1092msec (1.092) +/- 8msec である。


(1-3) 総社市の観測について

表2より、シミュレーションに必要なパラメーターを計算する。
Va :
月の移動方向の角速度 (“/sec)CCT : Contact AngleRV : 月縁に垂直な方向の角速度成分
Ds :
月までの距離 とすると、月の月の移動速度 V (m/sec) は、次のように求められる。
RV = cos(CCT) Va
より
Va = RV / abs(cos(CCT))
= 0.235 / abs(cos(+48))
= 0.3512 ("/sec)
V = Ds*π*Va/(180*3600)
Ds = 384973 (km)
V = 384973*0.3512*pi()/(180*3600)= 655 m/sec

これよりフィッティングを行う。



図5−2  Limovieによる重星のシミュレーション (総社市で観測されたビデオ)


No.434 フレームの中央時刻は 12h 00m 10.99s であることから、先発フィールドの露光中央時刻は、
12h 00m 10.98s
であると考えられ、Limovieの計算したOffset timeより、
先に潜入したコンポーネント  :  12h00m10.78s +/- 0.017s (UTC)
後から潜入したコンポーネント :  12h00m10.99s +/- 0.017s (UTC)
と求めた。


(1-4) 岡山県倉敷市の観測について

表2より、シミュレーションに必要なパラメーターを計算する。
Va :
月の移動方向の角速度 (“/sec)CCT : Contact AngleRV : 月縁に垂直な方向の角速度成分
Ds :
月までの距離 とすると、月の月の移動速度 V (m/sec) は、次のように求められる。
RV = cos(CCT) Va
より
Va = RV / abs(cos(CCT))
= 0.239 / abs(cos(+47))
= 0.3504 ("/sec)
V = Ds*π*Va/(180*3600)
Ds = 384975 (km)
V = 384975*0.3504*pi()/(180*3600)= 654 m/sec

これよりフィッティングを行う。



TIVi
による時刻表示を元に現象時刻を求める。   


Frame No.405

No. 406

end/start

............

Centre

............

end/start


First Field (No.405.0)

Second Field (No.405.5)


end/start

centre

end/start

centre

end/start

12h 00m 05.80s

12h 00m 05.805s

12h 00m 05.81s

12h 00m 05.822s

12h 00m 05.83s


No.405.0 フィールドの中央時刻は 12h 00m 05.805s であると考えられ、Limovieの計算したOffset timeより、12h00m05.805 - 199 = 12h00m05.606
12h00m05.805 + 3 = 12h00m05.808

のように計算し、表示と同様に小数点以下2桁に丸めて、
先に潜入したコンポーネント  :  12h00m05.61s +/- 0.017s (UTC)
後から潜入したコンポーネント :  12h00m05.81s +/- 0.017s (UTC)と求めた。



4.コンポーネントの位置の解析


(1) コンポーネントの位置角と離角の求め方

OCCULTでは、月縁と垂直方向の角速度が、Radial Velocity(RV)として予報されている。この角速度に時間を乗ずることにより、コンポーネント間の離角の、月縁と垂直な方向の成分を求めることができる。

2地点の星食観測における現象の時間差および月縁上の位置角から、コンポーネントの離角と位置角を求めることができる。

図は、最初に潜入した恒星をcomponent1、後から潜入した恒星をcomponent2とし、component1の潜入の瞬間について、2地点の観測における月縁と恒星の位置関係を重ねて描いたものである。直線は、赤が月縁上の位置角が小さい方、青は月縁上の位置角の大きい方の月縁を表す。




図6 月縁と重星の位置関係

b2>b1の場合

図6より、

b1=a*sin A --------------(1)

b2=a*sin(A+P1-P2) --------(2)

ここで C=P1-P2 とおくと、

b2=a*sin(A+C)

=a*(sinA*cosC+cosA*sinC)

=a*sinA*cosC+a*cosA*sinC --(3)

(1)より、

a = b1/sinA --------------(4)

これを(3)に代入し、

b2 = (b1/sinA)*sinA*cosC

+(b1/sinA)*cosA*sinC

b2 = b1*cosC+b1*(1/tanA)*sinC

b2 = b1*cosC+b1*sinC/tanA

b2 = b1(cosC+sinC/tanA)

b2/b1 = cosC + sinC/tanA

b2/b1 - cosC = sinC/tanA

(b2/b1 - cosC)/sinC = 1/tanA

tanA = sinC/(b2/b1 - cosC) --(5)

このように求めたA(4)に代入し、離角a

を求める。

Position Angle P は、

P=90-(p1+A) ----------------(6)

で求めることができる。


b1>b2の場合は、

tanA = sinC/(b1/b2 - cosC) –(5)

P=90+p2-A ----------------(6)

として求める。



(2) 位置角・離角の解析結果

(2-1) SAO78233について


表3−1  月縁を直線と仮定したときの、月縁とコンポーネントの離角 (SAO78233について)

観測地

月縁の位置角

(Position Angle)

月縁に垂直方向の速度

(“/sec)

現象の時間差

(sec)

月縁(直線)との離角(“)

安曇野市

34

0.138

0.832

0.1148

練馬区

33

0.133

1.092

0.1452

総社市

52

0.235

0.208

0.0489

倉敷市

52

0.235

0.202

0.0475


図6および上述の式の導出過程では、月縁の起伏を考慮していない。そこで、星食予報ソフトウエアLOWを用いて、The MoonLimb database に基づく月縁を表示させた。これによるとそれぞれの観測に対応する月縁は図7−1,7−2,7−3,-のようである。安曇野市および練馬区、倉敷市の観測では、ほぼ水平な月縁。総社市の観測では、1/30程度の勾配(約)であるとされる。

総社市の場合、Limovieが自動的に計算した接地角は49°であり、OCCULTが予報する48°とほぼ一致する。これらから、現象が起きた月縁は、ほぼ水平であると考えられる。

一方、安曇野市と練馬区の現象の時間差を比較すると、25%近い違いがある。これは、月縁の起伏の違いであると考えられるが、上記のように月縁図からはそのような起伏についての情報は得られていない。

そこで、Limovieの回折シミュレーション機能を用いた接地角(Contact Angle)の推定をおこなった。

安曇野市の観測(図8−18−2)では先行して潜入したコンポーネントは、接地角78.8° 後から潜入したコンポーネントは63.7°である。双方とも、シミュレーションと測定値がよくフィットしており、得られた接地角の信頼性も高いと考えられる。

練馬区の観測(図8−38−4)では、先行して潜入したコンポーネントは、接地角44.5° 後から潜入したコンポーネントは75.5°である。こちらはシンチレーションが大きく、十分にフィットしていないが、少なくとも月縁の起伏の影響があることを示している。

ここで、月縁上の位置角が、(a)安曇野市と(b)練馬区、(c)総社市と(d)倉敷市でそれぞれほぼ等しいことから、a-b,c-dの組み合わせは「基線長」が小さく計算上実用的でない。そこで、この組み合わせを除く4つの組み合わせを計算し、その平均を求めることにより位置角と離角を求めることにする。


[1] (a)安曇野市と(c)総社市

この現象の場合、

b1 = 0.0489” (総社市)

b2 = 0.1148” (安曇野市)

p1 = 52°

p2 = 34°

これより C = 52-34 = 18°

(5)より、

tanA = sin(18°)/(0.1148/0.0489-cos(18°))

= 0.2213

A = 12.48

P = 90-(52+12)=26°

ただし、後から潜入した恒星のほうが明るいことから、

P = 180-26 = 154°

a = 0.0489/sin(12.48)= 0.226”


[2] (a)安曇野市と(d)倉敷市

この現象の場合、

b1 = 0.0475” (倉敷市)

b2 = 0.1148” (安曇野市)

p1 = 52°

p2 = 34°

これより C = 52-34 = 18°

(5)より、

tanA = sin(18°)/(0.1148/0.0475-cos(18°))

= 0.2108

A = 11.90

P = 90-(52+12)=26°

ただし、後から潜入した恒星のほうが明るいことから、

P = 180-26 = 154°

a = 0.0475/sin(12.48)= 0.230”


[3] (b)練馬区と(c)総社市

この現象の場合、

b1 = 0.0489” (総社市)

b2 = 0.1452” (練馬区)

p1 = 52°

p2 = 33°

これより C = 52-33 = 19°

(5)より、

tanA = sin(19°)/(0.1452/0.0489-cos(19°))

= 0.1609

A = 9.14

P = 90-(52+9)=29°

ただし、後から潜入した恒星のほうが明るいことから、

P = 180-29 = 151°

a = 0.0489/sin(9.14)= 0.308”



[4] (b)練馬区と(d)倉敷市

この現象の場合、

b1 = 0.0475” (倉敷市)

b2 = 0.1452” (練馬区)

p1 = 52°

p2 = 33°

これより C = 52-34 = 19°

(5)より、

tanA = sin(19°)/(0.1452/0.0475-cos(19°))

= 0.1542

A = 8.77

P = 90-(52+9)=29°

ただし、後から潜入した恒星のほうが明るいことから、

P = 180-29 = 151°

a = 0.0475/sin(12.48)= 0.312”


[1]~[4]より、以下の結果を得た。


離 角

位置角

解析の結果

0.269” +/- 0.041”

152.5° +/-1.5°

予 報

0.187”

162.5°



(2-2) X86324について


表3−2 月縁を直線と仮定したときの、月縁とコンポーネントの離角 (X86324について)

観測地

月縁の位置角

(Position Angle)

月縁に垂直方向の速度

(“/sec)

現象の時間差

(sec)

月縁(直線)との離角(“)

安曇野市

34

0.138

13.998

1.918

総社市

52

0.235

10.26

2.411

倉敷市

52

0.235

10.54

2.477


[1] 安曇野市と総社市の観測より

SAO78233 component A : 12h18m47.543s +/- 0.017s (UTC)

X86324 : 12h18m33.645s +/- 0.134s 

より、時間差は 13.998 sec

b1 = 1.918” (安曇野市)


SAO78233 component A : 12h00m10.99s +/- 0.017s (UTC)

X86324 : 12h00m00.73s +/- 0.03s

より、時間差は 10.26 sec

b2 = 2.411” (総社市)

p1 = 34°

p2 = 52°

これより C = 52-34 = 18°

(5)より、

tanA = sin(18°)/(2.411/1.918-cos(18°))

= 1.0099

A = 46.28

P = 90+34-46=78°

ただし、後から潜入した恒星のほうが明るいことから、

P = 180+78° = 258

a = 1.918/sin(46.28)= 2.65”



[2] 安曇野市と倉敷市の観測より

b1 = 1.918” (安曇野市)

SAO78233 component A : 12h00m05.61s

X86324 : 11h59m55.07s

より、時間差は 10.54 sec

b2 = 2.477” (倉敷市)

p1 = 34°

p2 = 52°

これより C = 52-34 = 18°

(5)より、

tanA = sin(18°)/(2.477/1.918-cos(18°))

= 0.9078

A = 42.23

P = 90+34-42=82°

ただし、後から潜入した恒星のほうが明るいことから、

P = 180+78° = 262

a = 1.918/sin(42.23)= 2.85”


[1][2]より、以下の結果を得た。


離 角

位置角

解析の結果

2.75” +/- 0.10”

260° +/- 2°

予 報

3.1”

265.0°




5.等級を求める


(1) SAO 78233 を構成するコンポーネントの等級

(1-1) 安曇野市の観測から

Limovieによる測定値

ペア = frame1030 から frame1400 の平均 = 319 rms = 28

ステップ = frame1410 から frame1429 の平均 = 158 rms = 20

バックグラウンド = frame1440 から frame1540 の平均) = -3 rms = 8


先に潜入したコンポーネント = 319 - 158 = 161 units

後から潜入したコンポーネント = 158 - (-3) = 161 units

ペアの光量 = 319 - (-3) = 322 units

カタログより ペアの等級が7.46 (ワシントン重星カタログ)

式として、 m1-m2=2.5*log(b1/b2)

コンポーネント間に等級差はない。

ペアの等級が7.46を仮定すると、コンポーネントは、

m1-7.46=2.5*log(322/161)

m1-7.46=0.75

m1=8.21

結果、二つの 8.21等星よりなる重星である。


(1-2) 総社市の観測から

Limovieによる測定値

フィッティングの結果は、ステップの高さが55%である。

カタログより ペアの等級が7.46 (ワシントン重星カタログ)

m1-m2=2.5*log(55/45)

=0.22

ペアの等級が7.46を仮定すると、コンポーネントは、

m1-7.46=2.5*log(100/55)

m1-7.46=0.65

m1=8.11

以上より、もう一つのコンポーネントは、

8.11+0.22 = 8.33

結果、8.1等と8.3等の2つのコンポーネントよりなる。


(2) X86324の等級

(2-1) 安曇野市の観測から

SAO 78233 との光量比を求めると、

  X86324を含む  = frame800 から frame1000 の平均 = 355 rms = 28

SAO 78233のペア = frame1030 から frame1400 の平均 = 319 rms = 28

バックグラウンド  = frame1440 から frame1540 の平均 = -3 rms = 8

x86324のみでは  = 355 - 319 = 36

SAO 78233のペア = 319 - (-3) = 321

ペアとX86324の光量差は m(X86324)-m(SAO78233)=2.5*log(321/36)

m(X86324)-7.46=2.38

m(X86324) = 9.84


(2-2)総社市の観測から

SAO 78233 との光量比を求めると、

  X86324を含む  = frame800 から frame1000 の平均 = 725 rms = 60

SAO 78233のペア = frame1030 から frame1400 の平均 = 632 rms = 58

バックグラウンド  = frame1440 から frame1540 の平均 = -15 rms = 36

x86324のみでは  = 725 - 632 = 93

SAO 78233のペア = 632 - (-15) = 647

ペアとX86324の光量差は m(X86324)-m(SAO78233)=2.5*log(647/93)

m(X86324)-7.46=2.11

m(X86324) = 9.57


(3) 検討

図2より、安曇野市での観測のビデオは、録画期間内に薄雲の影響と思われるゆっくりした小さな光量変化が認められる。

薄雲などの影響を除くためには、記録時間が短い方がよいことから、光量において安定している総社市の観測の解析結果をもって、等級についての報告とする。



引用文献


1) Dunham, D.W., Evans, D.S., McGraw, J.T., Sandmann, W.H., and Wells, D.C.; 1973. "Photoelectric Measurement of Lunar Occultation. VI. Further Observationsl Results. " Astron. J., Vol. 78, p. 482.




図表



図4−1 X86324の潜入と考えられる部分のグラフの拡大(安曇野市で観測されたもの)


図4−2 X86324の潜入と考えられる部分のグラフの拡大(総社市で観測されたもの)


図4−3 X86324の潜入のグラフの拡大図(倉敷市で観測されたもの)







図7−1 安曇野市の観測における予報月縁(predicted using LOW with Moon Limb Database)


図7−2 練馬区の観測における予報月縁(predicted using LOW with Moon Limb Database)

安曇野市とほぼ同じ位置に潜入しており、月縁図もほぼ同様である。


図7−3 総社市の観測における予報月縁(predicted using LOW with Moon Limb Database)

月縁の位置角(またはWatts Angle)の1°は約30mである。この現象における月縁はWatts Angle 1°の差に対して約1km北方向に上がるような勾配を持つ。角度にして tan-1(1/30)=1.9° と小さな角度である。



図7−4 倉敷市の観測における予報月縁(predicted using LOW with Moon Limb Database)






図8−1 安曇野市での観測 先行するコンポーネントの潜入  接地角=78.8°


図8−2 安曇野市での観測 後から潜入したコンポーネント  接地角=63.7°


図8−3 練馬区での観測 先行するコンポーネントの潜入  接地角=44.5°


図8−4 練馬区での観測 後から潜入したコンポーネント  接地角=75.5°

 光量変化と接地角(Contact Angle)の解析