離角の小さい重星の星食における光量変化のシミュレーション
初稿:Jan.10 2006
改訂:Mar.9 2006
1.はじめに
接近した重星について、星食観測ではどの程度の離角まで検出できるのでしょうか。
検出限界に関係する条件として、時間分解能と月縁における回折があります。このそれぞれについて考察してみました。
2.時間分解能について
時間分解能は、ビデオ観測であれば、フレーム単位として1/30秒、フィールド単位として1/60秒となります。 月の平均的な移動角速度は、0.52秒角/秒ですから、フレーム単位の測定で0.017秒角(17ミリ秒角)、フィールド単位の測定では0.009秒角(9ミリ秒角)が検出限界となります。
以下に、主星と伴星の出現の時間差と離角(月の進行方向の成分)を示します。
出現の時間差 |
5 |
10 |
15 |
20 |
25 |
30 |
---|---|---|---|---|---|---|
離角(ミリ秒角) |
2.5 |
5.1 |
7.6 |
10.2 |
12.7 |
15.3 |
3.回折の影響について
月縁における回折は、月の進行方向と月縁のなす角によって違ってきます。 こちらを参照してください。
ここでは、月の進行方向に対して月縁が垂直である場合(星食の起こる位置角と月の進行方向が同じであるとき)について考え、以下のような条件でシミュレーションをおこなってみました。
想定した条件
月 縁 : 進行方向に垂直 等 級 : 主星と伴星の光度差 2.1等 (主星1.0等 伴星3.1等のスピカ食を想定) 伴星の位置角: 星食の位置角と同じ 観 測 : 光電管により単波長( 440nm )で測定 出現の時間差: 5 , 10 , 15 , 20 , 25 , 30 ミリ秒の時間差について計算 |
光量変化のシミュレーション
* グラフの赤い曲線は単独の星の星食の光量変化、青い曲線は重星の場合の光量変化を示しています。
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【伴星が主星の5ミリ秒前に出現】 増光時にはほとんど差がない。 出現後の振幅がわずかに小さくなっている。 |
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【伴星が主星の10ミリ秒前に出現】 出現後の振幅が、5ミリ秒前と比べて小さい。
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【伴星が主星の15ミリ秒前に出現】 光度変化の傾きがゆるやかになってくるだけで、変光曲線の形には大きな違いは見られない。月縁の傾きによる回折パターンと似ているが、復光後の振動部分の波長は変化がないことから区別できる。振幅は10ミリ秒のときより更に減ってくる。 |
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【伴星が主星の20ミリ秒前に出現】 出現し始めの部分のふくらみが目立つようになり、星が一つだけの場合との違いがわかるようになる。 |
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【伴星が主星の25ミリ秒前に出現】 2段階の増光であることが分かるようになる。 |
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【伴星が主星の30ミリ秒前に出現】 2段階の増光がとらえられるようになり、伴星の存在が明確になる。 |
4.まとめ
回折を考慮したシミュレーションによると、光量変化の測定による重星の検出は、「2段階の増減光」を判定基準とすると、時間差にして20ミリ秒、角距離にして約10ミリ秒角 (0.010秒角) が検出限界となります。(それより小さい離角の場合ですが、論文をあたったところ、振幅の減少についてシミュレーションと比較していくようです。かなり小さい変化を測定することとなり、シンチレーションの小さな時でないと難しいと思われます。)
「2段階の増減光」の検出限界は、ビデオのフレームおよびフィールドの長さとほぼ一致していますので、ビデオの持つ時間分解能は近接重星の検出に充分活用できることがわかります。
5.Limovie Ver.0.9.18 フィールド単位測光対応版 と 応用
離角の小さい重星をより確実に検出できるようにするためには、フィールド単位の測光ができると便利です。そこで、Limovieを改良し、フィールド単位の測光に対応させました。これにより、VCRに記録された画像から、フィールド毎に光量を読み取ることができます。
図は、動作試験に用いた、 XZ29252 (Nov.04 2000) の星食の光量変化のグラフです。
モニターのコマ送りでは、何となくゆっくりした減光に見え、Limovieのフレーム単位の測光でも重星かどうかははっきりとしなかったのですが、フィールド単位の測光では、伴星の存在を示す2段階の減光が明瞭にわかるようになってきました。
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さて、この現象では、伴星は主星より7フィールド遅れて消失しています。0.52*7/60=0.06 となり、0.06秒角の離角
(月の進行方向の成分)です。Dave Herald氏作のOccult による予報では、Double 0.186" とありますので、月の進行方向の成分は、その約3分の1ということになります。また、Occult の数値に基づくと等級は、5.0等と7.2等ですから、
光量: 全体=1821.78 伴星=187.89 伴星/主星=0.103
等級: log(0.103)/log(2.512) = -2.09 伴星=4.9+2.1=7.0mag
となり、光量についてもこの値を確認できるものになっています。(伴星は振幅が大きくなる部分を含めていますので明るい数値となるほうが自然です。)
この結果から見ても、月縁の星食では、たぶん0.02"程度まではこの方法により測定可能であると考えられます。